知識を深めるため大学院に進学
全社員で管理会計を学ぶ勉強会
株式会社浅沼醤油店
代表取締役 浅沼宏一さん
公開日:2025年2月12日
※インタビュー実施時の役職名を記載させて頂いております

リカレント教育として、浅沼さんご自身が大学院に進学をされていますが、大学との接点はどのようにして生まれたのでしょうか。
岩手県の醤油組合の皆さまと共同で脳卒中の予防対策の醤油を開発しようとする中で岩手大学農学部の研究室の学生さんたちに実際に美味しい減塩醤油を造るための評価に関わってもらったことが最初のきっかけです。
大学との接点はそれまではありませんでした。技術的な部分は、岩手県工業技術センターに相談に行くことが多かったのですが、大学も地域の課題を解決するための役割を一緒に企業と取り組んでくれると、共同研究をきっかけに知ることができました。
社会課題や地域課題に向き合うためには、学生、先生の力も含めて、多角的な視点で見つめることで新しい答えが見つかる可能性があると感じました。

大学院で学びを深めようと思った理由はどんなことですか。
醤油の試作品の評価をするための嗅覚センサーや化合物を分析する装置など、我々の持っていない装置が大学にはありました。岩手大学の産学連携を推進していたコーディネーターから装置を活用した分析のお誘いを受けて話を聞いている中で、実際に大学院に籍を置き研究してはどうかと提案されました。会社を経営していることもあり、時間や費用面で少し迷う部分もありましたが、興味の方が勝り、入学することにしました。
私は様々な原材料を扱い、いろいろな醤油を造ることがライフワークでした。出来上がったものをより科学的・客観的に分析して傾向をつかむことに、すごく興味、好奇心が掻き立てられ、機会があれば研究に取り組んでみたいという思いがありました。
加えて、共同研究を行う研究遂行協力員という制度を使うと大学が学費を半分免除してくれることも進学の後押しになりました。
大学院で学ばれた知識や経験はどのように会社に生かされていますか。
研究で解析を重ねていく上で、原材料の特徴などから出来上がる醤油の傾向などが分かってくるようになり、商品開発をするための仮説が立てやすくなったと思います。
経験していないことを社員にやってみてと言うのと、経験をもとに伝えるのでは社員の理解も違います。自分が体験してみて、学びを深めたり、視野が広がったりしたものについては、社員にも積極的にシェアをして取り組んでもらっています。

社員のスキルアップで浅沼醤油店が取り組んでいることを教えてください。
管理会計のMQ会計をもとに、自分たちがどういう取組をし、どう改善をするとどのくらいの利益が出るか、原価を下げるためにはどうするか、売り上げを上げるためにはどうするか、利益率を変えるためにはどうするか、共通認識を持つための勉強会の取組を全社員で進めています。
現在、勉強会で取り組むのは、原材料の仕入れ原価の削減につながる新規原料の開発についてです。原材料の高騰で価格交渉が難しくなる中、新規の素材開発を進める研究が唯一誰のことも傷つけずに原価を安くできる方法。会社の利益を確保して生活を維持していくという一つの目標に向けた教育として、勉強会は重要だと思っています。
FSSC22000を導入し独自の社員教育システムを構築していると伺っていますが、どのような取組でしょうか。
FSSC22000では、教育訓練の計画を立てることが求められているので、スキルマップを作成しています。食品安全を守るために必要な賞味期限の考え方、フードテロやバイオテロなどからどう防御するか、規格値の分析の重要性、冷蔵庫の庫内温度や解凍方法など、それぞれの部署ごとに必要なスキルを確認し、1年間で何を教えるかの計画を立てます。2018年から実施し、スキルマップの作成で社員同士が教え合う仕組みが定着してきています。

実際にスキルアップに取り組まれている社員の反応を教えてください。
全員にタブレット端末を配布して、MQ会計も発注の仕組みなどもキントーンという業務アプリで行うようにしています。社内の年齢層は幅広いですが、若い子が使い方を教えたりすることで、抵抗感があった世代も慣れて使えるようになるなど、業務の中で自然に自分のスキルをアップデートしていく形ができています。
今後、社員のスキルアップなどで取り組みたいことを教えてください。
時代に置いていかれるとか、何かあった時に再就職が困難になるとかいう強迫観念に駆られてスキルアップに取り組むのではなく、自然体で取り組めることが大事だと思っています。
職業スキル、会社の持っているリソースの中でこういう取組をしたらお客様に喜んでもらえるのではないか、世の中が楽しくなるのではないか、そんなお金になるか分からない部分の取組についても、少しずつ形にできる体制にしていきたいです。
